Vision
すべての人に、“一輪の花”を。
私たちが生きるこの世界は、
いつもいつも晴れやかで、
歓びに満ちているとは限りません。
それどころか、土砂ぶりの雨に見舞われることもあれば、
理不尽な傷を負うことだってあります。
「夢は叶う」「努力は報われる」
そうした言葉が、心に牙を剥く時だってあるのです。
私たちはそんな現実の世界に立っています。
しかしそんな世界の道端にも、一輪の花くらいは咲いています。
ところが、心が大きな問題を抱えていると、
人はその花にすら気付けなくなってしまいます。
実態以上に世界がモノクロームに見えているとき、
ささやかな幸せには気づけないのです。
精神医療は、世界にそっと色を灯し、
“一輪の花”に気づけるようにすることかもしれません。
ある患者さんは、病を患った当初は
色のない世界で何もかも手につかずにいましたが、
治療を続けるうちに、本を読めるようになりました。
そしてあるとき出会った一冊の本に心を打たれ、
それから本を読むということが、趣味になったそうです。
その患者さんにとっての一輪の花は、本だったのです。
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アマゾンの奥地に、ピダハンという少数部族がいます。
彼らには「未来」や「過去」という概念がありません。
さらに驚くべきことに、過去を参照し未来のことを考えないため、
「不安」という感情がほとんど無いといいます。
今を生きることで、不安から解放されているということです。
時間の概念を持つ多くの人は
そこまで徹底的に今を生きるのは難しいかもしれませんが、
今を生き、今そこにある幸せに気づけるようになることと、
全身を縛り付けていた不安を和らげることは
きっと同じことを意味しているのでしょう。
“一輪の花”をたどっていけば
一面の原っぱにたどり着けるかもしれないし、
ひょっとすると美しい庭園を創る側になるかもしれません。
(もちろん、ただ“一輪の花”を愛でるだけだっていい。)
そのとき、人はきっとこう思うことでしょう。
「この世界は、生きるに足る世界だ」と。
大きな幸福が待っているかどうか保証は無いけれど、
重い扉を開け、ささやかな幸せが見つかるかもしれない未来に期待する。
そんな心持ちです。
「この世界は、生きるに足る世界だ」と思える人を増やし、
すべての人が、ささやかな幸せを取り戻せる世界を創る。
これが私たちのビジョンです。
「行ってらっしゃい。いい花、見つかるといいですね。」
私たちは日々患者さん一人一人の背中を見届けながら、
今日も、その先も、そう告げます。